新型コロナウイルスの感染者が再び増えてきており、賛否両論の中で東京オリンピックが開幕しました。どうせやるなら、世の中が明るくなるイベントになるといいですね。
国内でも新型コロナウイルスのワクチン接種が徐々に進んでいますが、まだまだ全体の接種率は高くありません。一方で、ワクチン接種が先行しているアメリカやイギリスなどの国では、一時的に感染者数が減少に転じたものの、再び感染者が増えているそうです(といっても、ワクチンにより重症化率は変わらず抑えられているそうですから、やはり効果的といえそうです)。
新型コロナの実効再生産数とは
全国の実効再生算数は1未満だったのが、緊急事態宣言が明けた6月後半頃から再び1を超えてきました。実効再生産数というのは、「一人の感染者が平均して何人に感染させるか」を表した指標です。
日本では、2020年4月初旬に実効再生産数が2を超えました。つまり、1人の感染者が平均2人に感染させるということです。ここからは、いわゆるネズミ講のように広がっていきます。
感染者AがB・Cに感染させ、さらにBはD・Eに感染させ、CはF・G……というように広がっていくのです。1人から10回感染が繰り返されると、約1000人が感染します。
ただし、この実効再生産数は、生活によって変動するものです。たとえば、外出せずに人との接触が少なくなれば、当然実効再生産数は小さくなります。これを行うために発令されたのが「緊急事態宣言」や「外出自粛」ですね。
集団免疫とは社会全体の抵抗力
ただ、実効再生産数が2でも、その通りに感染が増加していくわけではありません。
その理由が「集団免疫」なのです。集団免疫とは、一度感染し、免疫がついた状態(感染しにくい状態)の人が世の中に多くなって感染症が流行しにくくなることで、ある感染症に対する社会全体の抵抗力のことをいいます。
たとえば、人口の50%が免疫を持っていた場合、実際2000人に感染するところ、1000人は感染しないことになります。さらに人口の60%が免疫を持っていれば、1200人は感染しないことになり、70%になれば1400人は感染しないわけですね。このように、免疫を持つ人が多くなれば、感染者はほとんどいなくなり、収束へと向かいます。
では、「それならば、緊急事態宣言や外出自粛をせず、一気に感染を広めてしまえば良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。
「多くの人が感染し、免疫を持てば収束に向かう」という観点からすれば、確かに正しいように思えます。
ただ、その考えで失敗したのが、スウェーデンや英国です。
スウェーデンは、集団免疫の考えに基づき、あえて外出自粛などを行わない方針で臨みました。しかし、結果は近隣の北欧諸国と比べて、多くの死亡者を出してしまっています。
死亡者増加の一因となるのが医療崩壊や病床不足です。少しずつ感染者が広まった場合なら病床を確保しやすいですが、一気に1感染者が押し寄せたらどうなるでしょうか。病床不足に陥り、十分な治療を受けられない患者さんが増えることとなります。
感染症の種類によって、集団免疫を得るために必要な免疫を持つ人の割合は異なるので、新型コロナウイルスではどのくらいの割合の人が免疫を獲得できれば集団免疫が成立するのかは今の所不明です。
社会が集団免疫を獲得できる前に、多数の死者を出してしまっては本末転倒です。このことから考えると、「一気に感染を広げてしまう」という考えは、適切とは言えません。そのため、ワクチン接種による対策が重要となります。
ちなみに、がん予防にも有効なワクチンがあることをご存知でしょうか。
代表的なもののひとつは「子宮頸がんワクチン」です。
がん自体は感染で広がる病気ではありませんが、子宮頸がんの発症は、そのほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスに感染することが原因となっていることが分かっています。
子宮頸がんワクチンはこのHPVへの感染を防ぐ効果が高いことが立証されており、日本でも2013年から国の定める定期接種となっています。
これも「免疫の力」でがんと闘うひとつの方法ですね。
【参考文献】
・後藤重則医師, 家族を守る免疫入門, KAWADE夢文庫,2020.
・厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A