このシリーズの初回にご紹介した「がん治療新時代WEB」 がん免疫療法Q&A(Q&Aシリーズの5回目)
<免疫細胞療法にはエビデンスがなく、治療効果が証明されていないと言われますが、本当でしょうか?>
の回答の中でreferされている論文の内、前回は、肺がんについての木村秀樹博士の論文を紹介しましたが、今回は、その論文を分析材料の一つとして組み込んだエビデンスレベル1である論文を紹介致します。
「Efficacy of Tumor Vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Call Lung Cancer: A Systematic Review and meta-analysis
[Journal of Clinical oncology誌]米国臨床腫瘍学会(ASCO)の機関誌掲載
また、瀬田クリニックの後藤重則先生が、瀬田クリニックHPに掲載されている「免疫細胞の治療効果に関するエビデンス(科学的根拠)についてという題で解説している中に、この論文について説明されています。該当パートを抜粋したものが、下記(quote/unquote)です。
Quote
免疫細胞治療に関する、最高位のエビデンスレべルの論文が2016年に報告されました。
Aという治療はエビデンスが「ある」、Bという治療はエビデンスが「ない」、といった議論がなされることがありますが、エビデンスはそういった単純な二元論で語れるものではありません。エビデンスのレベルはその信頼性などに基づき、高いものから低いものまで複数段階で評価されます。
社団法人日本医療機能評価機構がまとめた「診療ガイドライン作成の手引き2014」によれば、エビデンスは次の7段階に分けられます。上にあるものほど、偏りのない信頼性の高いエビデンスであるとされています。
国立がんセンター情報サービスの記載を元に作成(http://ganjoho.jp/med_pro/med_info/guideline/guideline.html)
免疫細胞治療に関しても、ランダム化比較試験という、客観的に治療効果を評価するための研究試験により有効性を示す論文がこれまで発表されてきました。複数のランダム化比較試験を検証して結論を導き出す、エビデンス分類では最高位の「Ⅰ」にあたる論文を紹介します。「JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY」という、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の機関誌であり、世界でもっとも権威のあるがん治療に関する学術誌に2016年に発表された論文(以下)です。
Efficacy of Tumor Vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Cell Lung Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis
この論文では、過去に報告された肺がんに対する免疫細胞治療やがんワクチンなど18の免疫療法に関し、ランダム化比較試験(対象患者数6,756人)を行った結果をまとめて解析しています。
「免疫細胞治療には有効性のエビデンスがない」というのは間違い。
従来医薬品と同様のエビデンスレベルの研究も発表されている。
同論文の中で、瀬田クリニックグループで実施しているものと同様の免疫細胞治療であるアルファ・ベータT細胞療法や樹状細胞ワクチンが行われました。解析の結果は、免疫細胞治療やがんワクチンによって病気の進行が抑えられ、生存期間が延長する、さらにはがんワクチンより免疫細胞治療がより有効であると結論づけられています。
繰り返しますが、この論文はランダム化比較試験など複数の研究データを用いるもので、エビデンスレベルはもちろん最高位の「Ⅰ」ということになります。
Unquote
コメント
「免疫細胞療法はエビデンスがない」とう議論がよく聞かれる一方、こうしたエビデンスレベルIの論文他、多数の論文、ケースレポートが数多く出されているのに、なかなか大きく取り上げられない、また、健全な、議論が発展していない現状は、患者が正しい情報にたどり着くことを難しくしている要因の一つだと思います。免疫療法に関係する学会も積極的に意見表明、ガイドラインの公表をして頂きたいところです。
また、この論文を掲載している米国の臨床腫瘍学会(ASCO)の本年の大会では、免疫療法が中心的話題であったとNHKが報道しておりました。このような世界の動きの中で、本邦では、オプチーボで代表されるオプチーボのように保険収載になった免疫チェックポイント阻害剤以外は、科学的根拠がないと決めつける傾向が強く、適切な情報をベースに主治医と免疫療法の可能性を相談したい患者には、大きなハードルが存在しております。
免疫細胞療法分野の本邦の臨床研究、治療実績は世界に冠たるものがあると言われております。他方で、その分析結果及び治療実績/リアルワールドエビデンスの分析が十分に進んでいるのか、当局を含む関係者に広く共有されているのか、疑問なしとせず、患者会も声を上げて行きたいと考えます。
米国では、免疫細胞療法の持つ従来型の薬とは大きく異なる性格のものであることから、製薬会社が取り上げずらい状況があり、80年代のNIHの研究が、実際の治療の観点では、進展せず、リアルワールドエビデンスの蓄積及び研究が、未発達に終っているように見受けられます。一方、本邦においては、米国での研究成果を踏まえ、その手法の問題点が改善され、発展していった。その有効性と安全性を確認して、1999年から故江川滉二先生が一般の患者に対し、免疫細胞療法を自由診療として始められ、其の後の約20年に亘って、積み上げられた免疫細胞療法の治療実績/(リアルワールドエビデンスの材料)、そこで培われた強み、特にリアルワールドエビデンスに基く臨床研究等に強みがあります。この強みを、国のがん対策に戦略的に生かしていくことが重要。患者会としては、例えば、国による「がん対策の重点項目」に入れるように関係当局に要請して行く活動をする必要を痛感する次第です。
また、こうした状況下、患者/医師間の「適切な情報」のベースを作る契機となるような活動を行っていく一環として本シリーズを続けて行きたいと思います。
次回は、リアルワールドエビデンスに基いた分析論文として胃がんの論文をご紹介致します。
このシリーズの初回にご紹介した「がん治療新時代WEB」 がん免疫療法Q&A(Q&Aシリーズの5回目)
<免疫細胞療法にはエビデンスがなく、治療効果が証明されていないと言われますが、本当でしょうか?>
の回答の中でreferされている論文のうち前回は、肝臓がんの論文を紹介しましたが、今回はもう一組の論文(含む追試論文)を紹介します。いずれも木村秀樹博士の肺がんについての論文です。
a. Kimura H et al.: Cancer 80:42,1997 →こちら
b. Kimura H et al:Cancer Immunol immunother.64:1,2015 (肺がん追試論文) →こちら
この木村先生の論文(上記a.)ついて、この免疫細胞療法の草分けであり、育ての親ともいうべき、故江川滉二先生がその著書(がん治療体にやさしい医療への潮流/河出書房新社) なかで次のように書かれております。
以下、転用。(P.107-110)
「肺がん手術後の長期生存率が上昇した。」
肺がん以外の手術後化学療法については、胃がん、乳がん、大腸がんなどについて非常に多くの報告があり、その結果、手術後の抗がん剤治療が推奨されている場合が多い。しかし、治療による5年生存率の上昇や、生存期間中央値の向上は、一般にそれほどはっきりしているわけではない。
また、乳がんや前立腺がんは、それぞれ女性ホルモン、男性ホルモンがなければ増殖しない性質があるので、手術後の治療は、これらのホルモンの働きを阻害する薬剤によるものになる。ホルモン阻害剤による治療は一般的に極めて有効であり、これらのがんの高い5年生存率の要因となっている。
しかし、これらのがんも、長期間にわたってホルモン阻害剤を使っていると、やがてホルモンがなくなっても増殖するがん細胞が残ることになり、その効果もなくなってくる。そうなると他の進行性がんと同様、抗がん剤しか選択肢がなくなってしまうことになる。
これに対し、千葉県がんセンターの木村秀樹博士の発表によると、肺腺がん(II期からIV期を含む)手術後の患者さんをなるべく均等に二つのグループに分け、必要であれば術後の化学療法あるいは放射線治療を行ったという。
そして第一グループはそのまま経過観察をし、第二グループはそれらの治療と併行して、手術後に数回の活性自己リンパ球の注入を行なった。
その結果、第一グループは、7〜8年後の生存率が30%程度でだったが、第二グループの長期生存率は60%程度の上昇したという。この結果は、同じ肺腺がんに対する手術後抗がん剤治療の効果よりもよほどはっきりしている。
この臨床研究は、患者さんの治療を中心に考えておこなわれたものであり、治療効果のエビデンス(証拠)を得ることを唯一の目的とした研究ではないため、病状や状態が様々な患者さんを含んでいる。更に手術だけではなく、抗がん剤や放射線も併用されており、その方法も状況に合わせて多様であるため、いわゆるエビデンスを中心に考える人たちの中には、この研究を多少難点のある報告と考える人たちもいる。
しかし、ある程度のリンパ節転移をすでに起こしている患者さんが対象に多く含まれているため、患者さん中心位考えるなら、このような併用治療をお行わないわけにはいかないし、現実の患者さんを一番よく反映している報告であるといえよう。
また、「7〜8年後の生存率」ということは、実質的に治癒を意味している。更に、効果判定が患者さんの生死によるものだから、がんの縮小効果による判定の場合と異なり、その結果は絶対的である。報告から導き出すと、術後の抗がん剤、放射線治療だけでは再発によって亡くなられる運命にあった70%の患者さんのうち4割ほど(患者さん全体の30%)の方々が、免疫細胞療法を加えることによって救われたということになる。それも単にがんが小さくなったということではない。治癒して命が救われたのである。これは、重要な結果である。
この結果に基いて考えるならば、日本の年間に肺がん罹患者の総数が約5万人、その内の2万人が手術を受けるとして、その30%、つまり、肺がんだけでも約6000人の患者さんが、手術後に免疫細胞治療を加えることによって新たに治癒に至る可能性があるということになる。
もちろんこれは、免疫細胞療法のみで効果を示しているわけではない。もともと手術との併用が前提であり、それに加えて抗がん剤や放射線の治療と併用した結果、三大治療法のみの場合と比べて上乗せ効果があったということである。しかし、これは、十分に意義のある効果と見るべきだ。
以上、がん治療体にやさしい医療への潮流(江川滉二著/河出書房新社)より転用
下線部分は、患者にとって極めて重要な指摘であり、免疫細胞療法の併用により、上乗せ効果があったという事、特に、全体の3割の患者さんが治癒して救われたという報告には、希望を見出します。理由が十分に学術的に解明され、将来保険収載になる道を開くことも大事であるが、今、がんに直面にしている患者にとっては、今適用できる治療法が重要である。その観点で「十分意義のある効果とみるべき治療法」があり安全であるならば選択肢のひとつとして是非、医師と相談のうえ適応を検討したいものです。「いわゆるエビデンスを中心に考える人たちの中には、この研究を多少何点のある報告考える」と言う記述もありますが、何故効果があるのかが十分に解き明かされていない段階であってもこうした「リアルアルワールドエビデンス」をベースとし臨床研究結果に大いに期待を寄せるものです。
この報告書で免疫細胞療法を併用した患者さん群ととそれを併用しなかった患者さん群で生存期間中のQOLに優位の差を認めるか否かも大変注目するところです。恐らくは、免疫細胞療法を併用した群のQOLの方が高かったのではないかと推察しています。
また、この論文は、追試とともに、2016年に米国臨床腫瘍学会の機関誌「JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY](ASCO)に掲載されたエビデンスレベルIである
「Efficacy of Tumor vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Cell Lung Cancer: A Systematic review and meta -Analysis」(対象者6,756人)
の中にも組み込まれております。