2021年5月現在、未だ猛威を振るう新型コロナウイルス。
身近な方が新型コロナウイルスに感染してしまった、という方もいるのではないでしょうか。
コロナウイルスによる主な症状は発熱です。その他にも、倦怠感やのどの痛みなどがあります。
実は、こうした感染症の主な症状は、免疫によるものです。
たとえば、のどの痛みは、粘膜から滲み出した液体(滲出液:しんしゅつえき)が増えたり、死んだ好中球が膿(うみ)として出たりすることで炎症が起こり、痛みが生じます。
また、発熱の原因として主なものが「サイトカイン」です。
サイトカインとは、細胞から放出されるたんぱく質の総称で、細胞と細胞の間で情報を伝達する役割を担っています。免疫細胞が、ウイルスやウイルスに感染してしまった細胞を攻撃するときに、共同作業する細胞同士の間で情報を伝えたり、刺激を伝えてもっと働きをよくしたりします。
サイトカインのなかには、強力な熱を発生させるものも含まれているため、発熱も免疫によるものといえます。
見た目にわかりやい例が、肺炎にかかったときのレントゲンです。
肺炎にかかった患者さんの胸のレントゲン画像には、白い影(陰影)が現れます。
これは、ウイルスそのものが写っているわけではなく、肺の炎症によって生じた滲出液や老廃物、膿や空気が正常に入らなくなった肺の一部分などが白い影として写っているのです。
このように、病気の症状は、免疫による副産物がくっついていることが多くあります。
寝たきりで、体の弱ったお年寄りが肺炎に罹患(りかん)しても、発熱せず、症状がでないことがありますが、これは、免疫の働きが弱っているからです。症状は出ていなくても病原体は増殖しているので、気が付いたときには回復不能な状態に陥っていることもあります。
風邪などをひいたときに、少しの熱であれば解熱剤で下げないほうが良い、という話を聞いた方もいるかもしれません。発熱は免疫が正常に働いている証拠なので、解熱剤を使うことで免疫の働きを抑えてしまう場合があるからです。
新型コロナウイルス感染症の重症化や死因のひとつとして、「サイトカインストーム(サイトカインの嵐)」という言葉を聞くようになりました。サイトカインストームは、かなり専門的な言葉であり、本来は日常で使われる言葉ではありません。
体の中でウイルスが大量に増加し、免疫が制御不能になると、サイトカインが一挙に大量に作られ、その作用が全身に及ぶことがあります。
このように、免疫が暴走し、サイトカインが過剰に作られることがまるで嵐が吹き荒れるように見えることから「サイトカインストーム」と呼ばれているのです。
新型コロナウイルス感染症にかかった患者さんにサイトカインストームが起こった結果、血液の凝固異常が起き、血栓が作られて、それが血管に詰まって心筋梗塞や脳梗塞などを起こす事例が報告されています。
免疫は、単に強く働くことが重要なのではなく、ほどよいバランスが必要なのです。
【参考図書】
後藤重則医師, 家族を守る免疫入門, KAWADE夢文庫,2020.