過去の新着情報
2023年7月にBS朝日にて放送された、医TVスペシャル「健康寿命と免疫の視点から~がん治療における免疫の可能性を探る~」では、長寿と免疫、がんと免疫の関係が取り上げられ、110歳を超える長寿の方(スーパーセンチナリアン)にはある特殊な免疫細胞が増えていることがわかったことが紹介されました。
一般的に歳をとると免疫力が下がって、がんや感染症などで亡くなる方もたくさんおられますが、スーパーセンチナリアンは、こうしたがんや感染症を回避して長く健康な方が多いとのこと。
番組では、免疫チェックポイント阻害薬と免疫細胞治療を併用する臨床研究が進められていることも紹介されており、がん治療において免疫の果たす役割は益々高まっています。
動画が公開されています。→こちら(医TVサイト)
がん免疫細胞治療を行う瀬田クリニック東京、および北海道、広島、福岡の施設で、 免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ、テセントリク)の治療後の方を対象とした、免疫細胞治療の臨床研究が実施されています。
対象となるのは、現在がん治療を行っている方で、以下に当てはまる方となっています。
- 免疫チェックポイント阻害剤を3ヶ月以上投与しており、標準治療が終了している、または終了予定の方
- 免疫チェックポイント阻害剤の最終投与日から100日以内に免疫細胞治療を開始出来る方
- 本研究の参加後も主治医におかかり頂ける方
治療費:無償
なお、臨床研究の詳細な情報はこちらからご覧いただけます。
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
がんと闘っている全ての患者さん、ご家族の皆様にとって、明るい1年になりますことを願います。
今回は、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬で効果が現れなかった患者さんが、直後に免疫細胞治療を受けて高い効果が出た、という事例が報告されており、ご紹介したいと思います。
患者さんは、4期(ステージⅣ)の進行腎盂がんの70代の女性。
腎盂とは腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管状の臓器で、尿管と繋がっています。腎盂がんは、他の多くのがんと同じく、早期では目立った自覚症状は出ないことが多く、がんが大きくなってくると血尿などの症状が出てきます。この患者さんも血尿が見られ、受診したところがんが見つかったそうです。
既に肝臓や肺に転移があって手術ができない状態だったため、抗がん剤(化学療法)と免疫チェックポイント阻害薬のひとつであるキイトルーダで治療を行いましたが効果がなく治療は中止に。しかしその後、免疫細胞治療を行ったところ著効し、肝転移、腎盂ともにがんが縮小したそうです。
これは免疫チェックポイント阻害薬のあと、まもなくして免疫細胞治療を開始したことが良かったのではないかと考えられるそうです。
免疫は、がんの発症を防ぐだけでなく、治療を行う上でも非常に重要ということが常識となりました。そして免疫チェックポイント阻害薬という、体の免疫力を利用するがん治療薬が登場して10年弱。今ではさまざまながんの治療で使われるようになっています。
ただ、免疫の仕組みは複雑なので、有効に働くためにさまざまなポイントがあり、残念ながら免疫チェックポイント阻害薬のみで効果が得られない患者さんもいます。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫が働きにくくなっているブレーキを外す薬です。
上記のケースでは、それだけでは上手く免疫を働かせることが出来なかったものの、免疫チェックポイント阻害薬の効果が残っているうちに、免疫細胞治療の効果が加わったのが良かった可能性があります。
こうした組み合わせの治療効果を明らかにするための臨床研究が行われており、現在研究参加いただける患者さんの募集が行われています(治療費は無償)。
▼臨床研究を行っている医療機関のページ
免疫チェックポイント阻害剤の治療後の方を対象に、免疫細胞療法(アルファ・ベータT細胞療法)の安全性および有効性を確認する臨床研究
【参考】
・国立がん研究センター東病院 腎盂・尿管がん
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/urology/070/010/030/20210517153038.html
7/22に、京都大学と近畿大学の研究グループが、がんの免疫療法「免疫チェックポイント阻害薬」の効果を予測できるプログラムを開発した、というニュースがありました。
免疫チェックポイント阻害薬はがん免疫療法のひとつで、がんによって抑えられている免疫本来の働きを復活させる薬です。
従来の抗がん剤や分子標的薬とは違う作用機序で、そうした薬が効かないがんでも効果が期待できるとして、さまざまながんで承認され、使用されています。当ブログをご覧になっている患者さんも、ニボルマブ(オプジーボ®)やペムブロリズマブ(キイトルーダ®)といった免疫チェックポイント阻害薬が使われていることをご存じだったり、実際に使われた方もいらっしゃると思います。
ただし、免疫チェックポイント阻害薬も実際に効果が得られる患者さんは2〜3割で、効くどうかの事前予測も難しいという課題もありました。
今回、研究グループは1万例のDNAデータを分析して、固形がん(血液がん以外のがん)を8パターンに分類し、その中で免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいがんが分かったそうです。
がんは、細胞の遺伝子に変異が起こることで発症する病気です。
こうした遺伝子の変異が多いがんは免疫療法が効きやすいことが分かっているので、これまでの効果予測は、主に遺伝子変異の量を調べて予測していました。ただし、こうした遺伝子変異の量が多くても効果がない場合や、逆に少なくても効果が出る場合があり、その精度が高くないことが課題でした。
そこで、1万例のDNAデータを分析して遺伝子変異の量ではなく、原因による特徴で分類したところ、遺伝子の変異が起こる原因がタバコや紫外線などの外的なものだと免疫チェックポイント阻害薬が効きやすく、加齢のような内的な要因だと効きにくいことが分かったそうです。これは臓器の種類は関係ありませんでした。
この、免疫チェックポイント阻害薬の効きやすい遺伝子変異の原因のタイプは全体の3分の1を占めるとのことなので、もともと知られていた「効果が現れるのは2,3割」とも合致している印象です。
(研究論文は、がん免疫領域の科学雑誌Journal for ImmunoTherapy of Cancerに掲載)
免疫チェックポイント阻害薬は薬剤費も高額であり、無駄な治療を行わずに済む意味でも事前に効果予測ができるのは有益なことで、今後は実際の治療現場で使えるようになることが期待されます。
とはいえ、効果が期待できないと判定された患者さんにとっては、有効な手立てがなければ引き続き課題です。
免疫チェックポイント阻害薬を行うも効果が出なかった進行がんの患者さんが、その後に単独で免疫細胞治療を行って著しい効果が出た事例が最近ありました。次回はその話を紹介させていただこうと思います。
【参考】
https://newscast.jp/news/2142996
現在、代表的ながん治療法として、外科療法(手術)と放射線療法、抗がん剤などの薬物療法、免疫療法の4種類があります。
この中で、免疫療法は比較的新しい治療として、最近知られてきたように思います。しかし実は古くから研究され、一部の治療法は以前から保険適用となっているものもあります。
がん免疫療法の歴史を振り返るとともに、現在の免疫療法をご紹介します。
がん免疫療法の歴史
がん免疫療法が始まったのは、実は100年も前の話だそうです。
ウィリアム・コーリーという外科医師は、19世紀末、肉腫の患者さんのがんが細菌に感染した後に縮小したのを目撃して、細菌の感染により患者自身の体ががんを抑え込むようになるという仮説を立て、死滅させた細菌を腫瘍内に注入するというがん治療を始めました。この治療によりがんの縮小が持続し、また消失することもあったそうです。これががん免疫療法の先駆けとされています(※1)。
当時は免疫についてほとんど明らかになっておらず、コーリー医師自身もなぜ細菌の死がいが、がんを消滅させたのか分かりませんでした。治療法の原理が不明だったこと、そして同時期にキュリー夫人による放射線の発見により放射線療法が発展したことで、免疫療法の開発は忘れ去られてしまったそうです。
再び免疫療法が注目され始めたのは1970年代でした。BCGをはじめとする細菌製剤が、がん治療薬として認可されたのです。BCGはもともと結核予防のためのワクチンとして開発され、9つの針のある管針で2回肩の皮膚に接種します。子供の頃に接種を受けた方は、肩に9つの点の接種跡が残っている方もいらっしゃると思います。
当時はまだ、細菌製剤ががんに効く仕組みは十分に明らかになっていませんでしたが、細菌がもつ成分が食細胞にある特定の受容体に結合して、がんに作用したと考えられています。食細胞とは、体外から侵入した異物を食べて排除したり、食べた異物の情報をほかの細胞へ受け渡したりする免疫細胞の一種です。その後、だんだんと免疫の仕組みが明らかになり、BCGは当時膀胱がんの標準的な治療法となりました(※2)。
副作用を解消するために開発された免疫細胞治療
初期の免疫療法は、免疫を刺激し、活性化させて異物であるがん細胞を排除するように働きかける治療法です。免疫を刺激するのに使われたものが、細菌やキノコに含まれる成分です。
また、免疫が働く時に放出されるサイトカインと呼ばれる物質は、免疫の主要な細胞であるT細胞を増殖させて免疫を増強します。そのため、サイトカインもがん治療薬として応用されました。しかしサイトカインや細菌成分によるがん治療薬は、副作用が問題でした。そこで新しく考え出されたのが、免疫細胞治療です。
免疫細胞治療は、がん患者さんから採血し、血液中から取り出した免疫細胞を体外でサイトカインにより刺激して増殖させ、副作用のもとになるサイトカインを取り除いてから再び体内に戻すという治療法です。サイトカインは体内に入らないため、副作用も問題になりません。そして2010年には、アメリカで初めて免疫細胞治療が前立腺がんの治療として承認されました。
樹状細胞ワクチン療法とは?
免疫細胞治療のひとつとして、近年注目されているのが樹状細胞ワクチン療法です。
樹状細胞とは免疫細胞の1種で、体に害となる異物の情報を読み取って、攻撃役であるT細胞へと伝えます。樹状細胞から情報を受け取ったT細胞は抗体を産生したり、異物を直接攻撃して排除したりします。
樹状細胞ワクチン療法では、体外に取り出した患者さんの樹状細胞に、がんの目印となるタンパク質をわざと取り込ませることで標的を覚え込ませ、それを体内に戻すことで、体の中でT細胞への指令をより強力にする仕組みの治療です。
最新の樹状細胞ワクチン療法としては、患者さんのがんを遺伝子解析して、その患者さんだけの目印を作って樹状細胞に取り込ませる「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法」が研究され、臨床研究も行われているそうです。
今後、治療実績が増えれば、新しいがん治療として普及するかもしれません。
【参考文献】
※1)Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150230
※2)後藤重則医師, 家族を守る免疫入門, KAWADE夢文庫,2020.
日本人の2人に1人が一生のうちにがんと診断され、男性は4人に1人、女性は6人に1人ががんで亡くなるそうです(※1)。がんは日本人の死因トップ(※2)でもあり、「がんは怖い病気」とのイメージがあります。
なぜがんが発生するのか、その原因やがん細胞から体を守る仕組みについて調べてみました。
がんの原因は遺伝子の異常
がんは、体内に発生したがん細胞が増えて塊になることで正常な細胞を侵食し、臓器が正しく機能できなくなることで死に至る病気です。
そもそもがん細胞が発生するのは、正常な細胞の中にある、体の設計図といえる遺伝子に異常が起こることが原因といわれています。
通常、細胞は1つから2つ、2つから4つと分裂してどんどん新しい細胞を作っています。私たちの体は約38兆個もの細胞からできているといわれており、1日で1%の古い細胞が死に、その分新しい細胞を産み出しているとされています(※3)。
そうした過程で、何らかの理由で細胞の遺伝子に異常が生じ、その異常な細胞が分裂して増えてしまうことで、がんになるといわれています。
がん細胞が厄介なワケ
正常な細胞は、一定回数分裂したら自動的に死滅するようにプログラムされています。そのため、細胞が増えすぎてしまうことはありません。
しかし、がん細胞には正常な細胞のように制御機能がなく、際限なく分裂し、増えていきます。増えすぎたがん細胞は、塊となってさらに大きくなっていきます。
がん細胞が厄介な理由は、浸潤と転移と呼ばれる現象があるためです。浸潤とは、がん細胞が正常な細胞の間に広がって、自分の陣地を広げることです。がん細胞が浸潤すると、その臓器は正常に機能できなくなります。
転移とは、血管やリンパ管にがん細胞が侵入し、血液やリンパ液にのって全身へ流れていき、最初にがん細胞が発生した場所から離れた場所に移動することです。正常な細胞は大腸の細胞なら大腸で、胃の細胞なら胃でしか増殖できませんが、がん細胞は全身どこでも増殖できてしまうので厄介なのです。
免疫ががん細胞の芽を摘んでいる
がん細胞は、遺伝子に病的な異常が生じることで発生しまいます。しかし、遺伝子に異常が起こるとただちにがん細胞ができるわけではありません。私たちの体にはこの遺伝子の異常を修復する機能が備わっています。細胞の遺伝子に異常が生じた場合、体は自動的に異常を修復して正常に戻します。
ただし、こうした異常は日々膨大な回数起こっているとされていて、すべての異常が修復されるわけではありません。なかには修復されないままになってしまうこともあるそうです。そうなったときは「免疫」の出番です。
異常な遺伝子を持った細胞は、正常な細胞にはない異常なタンパク質を作ります。私たちの体に備わった免疫は、この異常なタンパク質を目印として、正常な細胞でないことを見分けて攻撃し、がん細胞の芽を摘んで体を守ってくれているのです。
免疫が、どのようにしてがん細胞などから体を守っているかは、以前のブログにも書きました。
→「免疫はどうやって私たちの体を守っている?」
がん細胞が発生してしまったら、がんが進行していずれ死に至ると思われがちです。しかし、体内では自分でも気づかないうちに免疫細胞ががん細胞を見つけ、排除してくれています。だからこそ、がんに対抗するには免疫の力が重要なのです。
【参考文献】
※1)国立研究開発法人国立がん研究センター「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
※2)厚生労働省「死因順位(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html
※3)東京都福祉保健局「がんって何?」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/about.html
後藤重則医師「家族を守る免疫入門(KADOKAWA夢文庫)」2020.
私たちの体は、細菌やウイルスなどの侵入を阻止するため、「免疫」と呼ばれる防御システムが備わっています。免疫は体の外から入ってくる敵だけでなく、体を内側から生じるがん細胞を攻撃する役割も果たします。
しかし時として、免疫システムが自分自身を攻撃してしまうケースもあります。これが自己免疫疾患です。なぜ自分を守るはずの免疫が自己を攻撃してしまうのでしょうか?
免疫は自分と自分以外を見分けるところから始まる
そもそも免疫とは、自分と自分以外を見分けて、自分以外のものを排除する体の防御反応です。そのため、免疫が正常に機能していれば、普通は自己を攻撃することはありません。
ここでいう自分(自己)とは、自分の正常な細胞や臓器などのことを指し、自分以外(非自己)とは体の外から入ってくるウイルスや細菌といった病原や、体の中から生じて害をなすがん細胞などがそれにあたります。
免疫は、お母さんのお腹の中にいるころから備わっています。お母さんと胎児とをつなぐ胎盤にはバリア機能が備わっており、胎児へ送られるのは栄養と血液です。細菌やウイルスといった病原体の侵入を阻止するため、胎児の細胞は自己を覚えて自分以外のものを攻撃するように教えられます。
免疫を担っているのは主に、T細胞と呼ばれる免疫細胞です。T細胞が誤って自分を攻撃してしまった場合、すぐに死滅させられる仕組みが備わっており、自分を攻撃しないよう徹底的に教育されています。
T細胞は、侵入者を攻撃するキラーT細胞と、それを制御するT細胞(制御性T細胞といいます)の大きく2種類に分類されます。キラーT細胞が暴走すると、自分の細胞まで攻撃してしまう場合があるため、制御性T細胞がそうならないようにコントロールする仕組みです。
自己免疫疾患がおきる理由
胎児の時期に自分と自分以外を学んでいるため、免疫は正常に機能していれば、自分を攻撃することはないと説明しました。しかし例外として免疫が誤って自分を非自己と認識して攻撃してしまうケースがあり、自己免疫疾患が起こることがあります。
自己を非自己と認識してしまう理由は、まだ解明されていません。今の段階では、自分の細胞と似た特徴を持つ病原体が体内に侵入することで、間違えて自分の細胞まで攻撃してしまうのではないか、と考えられています。
あの病気も自己免疫疾患!?意外と知られていない病気
有名な自己免疫疾患には、関節リウマチやバセドウ病、円形脱毛症などがあります。円形脱毛症は、今までストレスが原因と考えられていましたが、実は自己免疫疾患の一種であることが分かってきたそうです。
また、難病に指定されている潰瘍性大腸炎も、自己免疫疾患の一つです。潰瘍性大腸炎とは、大腸の内壁に傷ができて炎症が起きる病気です。炎症によって痛みが起こったり、傷から出血したりして、腹痛や血便を引き起こします。
潰瘍性大腸炎は1,000人に1人の割合で起こり、発症年齢は若者から高齢者までさまざまです(※1)。詳細な原因はまだ不明とのことですが、腸内環境が変化して大腸の粘膜のバリアが破綻し、免疫機能に異常が起こることが原因と考えられているそうです。
大腸は体内にあるものと思われがちですが、実は肛門や口を通して外部とつながっています。そのため大腸の粘膜には、細菌やウイルスなどの侵入者から、体を守る免疫が備わっているというわけです。
潰瘍性大腸炎を引き起こす大腸粘膜のバリアの破綻は、食事バランスの変化や腸内細菌の乱れによって起こると考えられています。食生活や生活習慣の乱れは、免疫の働きを乱す原因になります。日頃から規則正しい生活とバランスの取れた食事を心がけたいですね。
【参考文献】
※1)難病情報センターホームページ「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」
https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
後藤重則医師「家族を守る免疫入門(KADOKAWA夢文庫)」2020.
がんを予防できるワクチンがあったらいいのに、と思ったことはないですか?
実は、がんの予防につながるワクチンはすでにいくつか開発され、実用化されています。
がんを防ぐワクチンとその特徴をご紹介します。
がん予防につながるワクチンにはどんな種類がある?
過去に類を見ないほど多くの人が新型コロナウイルスのワクチンを接種したおかげで、ワクチンや免疫といったものへの理解が広がっているように思います。
ワクチンは私たちの体がもつ免疫の働きを利用した、病気への対抗手段です。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、はしか、風疹など、さまざまな種類の病気に対するワクチンがありますが、そうした中で、がん予防につながるワクチンもいくつか実用化されています。代表的なものとしては、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)やB型肝炎ワクチンが挙げられます。
子宮頸がんワクチンは、子宮頸がんを予防するワクチンです。子宮頸がん以外にも、膣がんや肛門がんなどを予防する効果も知られています。日本における子宮頸がんの年間死亡者数は約2,800人です(※1)。近年、死亡数は増加傾向にあり、とくに50歳未満の比較的若い年代の発症が問題となっています。
B型肝炎ワクチンは、B型肝炎を予防して慢性肝炎や肝硬変、さらに肝がんへ進行することを防ぎます。世界保健機構(WHO)によると、世界では年間50万人〜70万人の人がB型肝炎で亡くなっています(※2)。
ワクチンで予防できない病気とその理由
子宮頸がんやB型肝炎のように、がんを予防できるワクチンがある一方、ワクチンを開発でされていないものもあります。たとえば、C型肝炎や成人T細胞白血病(ATL)もウイルスへの感染が原因でがん発症につながりますが、現段階では有効なワクチンが作られていません。
C型肝炎は「C型肝炎ウイルス」への感染により、慢性肝炎や肝硬変、肝がんへと進展してしまう病気です。同じ肝炎ウイルスであるB型肝炎ウイルスのようにワクチンも作れるのでは、と思いますよね。しかしC型肝炎ウイルスに対して作られる抗体は、ウイルスの働きを抑制したり壊したりする能力が高くありません(※3)。
ATLは母乳や血液、体液を介してHTLV-1と呼ばれるウイルスに感染することで発症します。ATLに対するワクチンが未開発なのも、ウイルスに対する抗体は作られるものの完全にウイルスを排除できないからです(※4)。
子宮頸がんワクチンやB型肝炎ワクチンの効果
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することが原因で発症します。HPVワクチンは、子宮頸がんの50〜70%に相当する2種類のヒトパピローマウイルスに対して、予防効果があると考えられています。性交渉を介して感染するため、初めての性交渉前にワクチンを接種しておくことが重要です。3回の接種は必要ですが、公費により無料で受けられるワクチンです。
B型肝炎は血液や体液を介してB型肝炎ウイルスに感染することが原因となります。ウイルス感染を防ぐB型肝炎ワクチンは、3回接種で15年程度効果が持続します(※5)。とくに10代で接種すると、より高い効果を期待できます。
母から子へB型肝炎ウイルスが感染するのを防ぐため、国は2016年から0〜1歳児に対して定期接種を開始しました。定期接種と妊娠時検査の実施で、94〜97%の確率でB型肝炎の母子感染を防げると考えられています(※2)。
このように、子宮頸がんワクチンやB型肝炎ワクチンは一定の効果が認められたワクチンで、定期接種や公費対象となっています。
こうしたウイルスへの感染が原因で、ワクチンがあるがんは「撲滅が目指せるがん」と言われています。副作用の問題が指摘されることもありますが、正しい知識を持ってがんリスクを減らすために有効活用しましょう。
【参考文献】
※1)日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
※2)国立感染症研究所「B型肝炎とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/hepatitis/392-encyclopedia/321-hepatitis-b-intro.html
※3)国立感染症研究所「C型肝炎とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/322-hepatitis-c-intro.html
※4)後藤重則医師「家族を守る免疫入門(KADOKAWA夢文庫)」2020.
※5)厚生労働省「B型肝炎ワクチンの定期接種が始まります」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000134456.pdf
日本では、2021年に新型コロナワクチンの接種が始まってから、半年あまりで日本の新型コロナワクチンの2回接種率は70%(※1)を超えました。
しかし厚生労働省は、一般市民に対する新型コロナワクチンの3回目接種の実施も検討しています(※2)。なぜ一度のワクチン接種で一生効果が持続しないのか、ワクチン接種を何度も実施するブースター接種の必要性について学んでみましょう。
新型コロナワクチンの効果は一生持続しない
新型コロナワクチンに限らず、感染症に対するワクチンは、基本的に一生効果が続くものではありません(※3)。
そもそもワクチンは、体に害がないウイルスの一部や死滅させたウイルスを使って、人体の免疫機能を利用して抗体を作らせる予防医療の一つです。抗体はウイルスの働きを抑制するため、万が一ウイルスに感染した場合もワクチン接種で作られた抗体が働いて、感染による症状を和らげます。また、細胞を戦闘部隊としてウイルスと戦う準備をさせるのがワクチンです。
ワクチン接種により作られた抗体は、異物が除去されると自然と血中から消えます。一方で、抗体を作った記憶は細胞に残り、再度同じ異物が侵入すると即座に対応するメカニズムです。
細胞が記憶しているなら、新型コロナワクチンは一生効果が持続すると思うかもしれません。しかし、細胞の記憶は時間の経過とともに薄れていき、効果も弱くなっていきます。
ワクチンの効果が一生続かない理由
前述のとおり、ワクチンによって作られた免疫は次第に弱くなり、最終的に再感染しても抗体が作られなくなります。 実はワクチンの効果が一生続かない理由は、それだけではありません。
ワクチンの効果は、ウイルスにある目印に対して効果を発揮するものです。つまり、ウイルス自体が変化して目印がなくなってしまうと、ウイルスが抗体や細胞による攻撃対象として認められなくなってしまいます。
実際に日本でも、新型コロナウイルスの変異株であるデルタ株やオミクロン株が確認されており、新型コロナワクチンを2回接種した人も感染することが報告されています(※4)。
ブースター接種の必要性と期待できる効果
新型コロナワクチンを2回接種しただけでは、時間とともに効果が薄れてしまうことは先にお話ししました。しかし、継続的にワクチンを接種することで、効果を長引かせることはできます。これがブースター接種と呼ばれるものです。新型コロナワクチンをブースター接種すると、その度に細胞の記憶が呼び覚まされることになります。
車の運転で例えると、長く自動車の運転をしていないとギアの入れ方やライトのスイッチの操作を忘れてしまいます。しかし、定期的に運転していれば、運転の仕方を忘れることはほとんどないでしょう。
新型コロナワクチンの接種でも、車の運転と同じことがいえます。細胞の記憶を定期的に刺激することで、抗体の作り方やウイルスへの攻撃の仕方を忘れにくくするのが、ブースター接種です。
現在、厚生労働省では新型コロナワクチンの追加接種を予定しており、希望者は3回目の接種ができるようになります。
がん治療中の患者さんは、治療内容やタイミングによっては感染や重症化リスクが高くなる場合がありますので、開始されたら速やかにワクチンの追加接種をされることをおすすめします。
参考文献
※1)政府CIOポータル「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む))」(2022年1月6日時点)https://cio.go.jp/c19vaccine_dashboard
※2)厚生労働省「追加接種(3回目接種)についてのお知らせ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_booster.html
※3)後藤重則医師「家族を守る免疫入門(KADOKAWA夢文庫)」2020.
※4)国立国際医療研究センター「新型コロナウイルス、オミクロン変異株に感染した11例の臨床経過とウイルス排出期間に関する報告」
乳がんの再発リスクをスコア化する検査が保険収載へ
2021年11月、乳がんの再発リスクを判定する遺伝子検査「オンコタイプDX」が保険適用になることが決まりました(12月1日付けで保険適用されることが決まっていましたが、メーカー側の開発が遅れて一時保留となったようです)。
乳がんに限りませんが、がんは早く見つけて早期に治療を行うほど完治できる割合は高くなります。
多くのがんでは一般的に5年再発がなければ完治とみなされるのに対して、乳がんは比較的がん細胞の増殖が遅く、5年以上経っても再発がままあるため、10年経たなければ完治とみなされません。
乳がんの再発を予防するための治療には、基本的に抗がん剤が行われます。
対象になるのは「再発の可能性が高いと判断された患者さん」ですが、再発の可能性が高いかどうかについては、リンパ節への広がりやがん細胞の悪性度、増殖の早いタイプかどうかなどを医師が総合的に判断します。 強く再発の可能性が懸念されるような場合もあれば、なんともいえない場合もあり、明確な基準があるわけではありません。
そこで、再発の可能性を判断するひとつの材料として、このオンコタイプDXという検査が開発されました。
21種類の遺伝子を検査して乳がんの再発リスクをスコア化するこのこの検査は、実はずっと以前からあったのですが、日本では公的保険の承認をされておらず、約40万円ほどの自費診療としてのみ行われていました。
ですので、主治医の先生もそれを患者さんに勧めることはあまりなく、ご存じない方も多かったと思います。
実際、私の家族がステージⅡの乳がんで手術を行った後、再発予防の治療を行うかどうか判断に迷ったときも、主治医の先生からこの検査の紹介は特にありませんでした。
副作用との兼ね合いで再発予防治療を行うかどうかの判断は難しい
抗がん剤の治療は、制吐剤の開発によって吐き気などの副作用は軽減されてきたものの、脱毛や手先などの末梢神経障害、倦怠感や白血球の減少などは生じることが多く、つらい副作用を伴うことにいまだ変わりありません。
再発をできるだけ防ぐことが大事とは分かっていても、実際に起こるかどうか分からない再発の予防目的で厳しい副作用を伴う治療に踏み出すのは、患者本人にとってはやはり難しい決断です。
副作用覚悟で再発予防の治療を行うのであれば、できるだけ明確な基準があったほうがいいですし、このオンコタイプDXももちろん100%の判断ができるものではありませんが、再発リスクをスコア化して検討材料にできるのは、大変有意義なことだと思います。
副作用の少ない治療も選択肢の一つに
そして再発を予防するための治療としては、抗がん剤のほかに、副作用が少ない免疫細胞治療も選択肢のひとつになり得るだろうと思います。
私たちの体に備わった免疫システムは、体の中で生じたがん細胞のもとをやっつけて、病気のがんになることを防いでくれていると考えられています。
自身の免疫細胞を強化するこの治療は、手術などの治療のあとに残ってしまった(かもしれない)微小ながん細胞を攻撃して、再発の芽を詰むことが期待できます。当会でも再発予防のために治療を受けた患者さんは大勢いますが、大きな副作用はほとんど見られません。
検診率を高めて早期発見を進めるとともに、早期治療を行ったあとのがん再発率を下げることができれば、日本のがん治療は大きく進歩するはずです。
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