このシリーズの初回にご紹介した「がん治療新時代WEB」 がん免疫療法Q&A(Q&Aシリーズの5回目)
<免疫細胞療法にはエビデンスがなく、治療効果が証明されていないと言われますが、本当でしょうか?>
の回答の中でreferされている論文のうち前回は、肝臓がんの論文を紹介しましたが、今回はもう一組の論文(含む追試論文)を紹介します。いずれも木村秀樹博士の肺がんについての論文です。
a. Kimura H et al.: Cancer 80:42,1997 →こちら
b. Kimura H et al:Cancer Immunol immunother.64:1,2015 (肺がん追試論文) →こちら
この木村先生の論文(上記a.)ついて、この免疫細胞療法の草分けであり、育ての親ともいうべき、故江川滉二先生がその著書(がん治療体にやさしい医療への潮流/河出書房新社) なかで次のように書かれております。
以下、転用。(P.107-110)
「肺がん手術後の長期生存率が上昇した。」
肺がん以外の手術後化学療法については、胃がん、乳がん、大腸がんなどについて非常に多くの報告があり、その結果、手術後の抗がん剤治療が推奨されている場合が多い。しかし、治療による5年生存率の上昇や、生存期間中央値の向上は、一般にそれほどはっきりしているわけではない。
また、乳がんや前立腺がんは、それぞれ女性ホルモン、男性ホルモンがなければ増殖しない性質があるので、手術後の治療は、これらのホルモンの働きを阻害する薬剤によるものになる。ホルモン阻害剤による治療は一般的に極めて有効であり、これらのがんの高い5年生存率の要因となっている。
しかし、これらのがんも、長期間にわたってホルモン阻害剤を使っていると、やがてホルモンがなくなっても増殖するがん細胞が残ることになり、その効果もなくなってくる。そうなると他の進行性がんと同様、抗がん剤しか選択肢がなくなってしまうことになる。
これに対し、千葉県がんセンターの木村秀樹博士の発表によると、肺腺がん(II期からIV期を含む)手術後の患者さんをなるべく均等に二つのグループに分け、必要であれば術後の化学療法あるいは放射線治療を行ったという。
そして第一グループはそのまま経過観察をし、第二グループはそれらの治療と併行して、手術後に数回の活性自己リンパ球の注入を行なった。
その結果、第一グループは、7〜8年後の生存率が30%程度でだったが、第二グループの長期生存率は60%程度の上昇したという。この結果は、同じ肺腺がんに対する手術後抗がん剤治療の効果よりもよほどはっきりしている。
この臨床研究は、患者さんの治療を中心に考えておこなわれたものであり、治療効果のエビデンス(証拠)を得ることを唯一の目的とした研究ではないため、病状や状態が様々な患者さんを含んでいる。更に手術だけではなく、抗がん剤や放射線も併用されており、その方法も状況に合わせて多様であるため、いわゆるエビデンスを中心に考える人たちの中には、この研究を多少難点のある報告と考える人たちもいる。
しかし、ある程度のリンパ節転移をすでに起こしている患者さんが対象に多く含まれているため、患者さん中心位考えるなら、このような併用治療をお行わないわけにはいかないし、現実の患者さんを一番よく反映している報告であるといえよう。
また、「7〜8年後の生存率」ということは、実質的に治癒を意味している。更に、効果判定が患者さんの生死によるものだから、がんの縮小効果による判定の場合と異なり、その結果は絶対的である。報告から導き出すと、術後の抗がん剤、放射線治療だけでは再発によって亡くなられる運命にあった70%の患者さんのうち4割ほど(患者さん全体の30%)の方々が、免疫細胞療法を加えることによって救われたということになる。それも単にがんが小さくなったということではない。治癒して命が救われたのである。これは、重要な結果である。
この結果に基いて考えるならば、日本の年間に肺がん罹患者の総数が約5万人、その内の2万人が手術を受けるとして、その30%、つまり、肺がんだけでも約6000人の患者さんが、手術後に免疫細胞治療を加えることによって新たに治癒に至る可能性があるということになる。
もちろんこれは、免疫細胞療法のみで効果を示しているわけではない。もともと手術との併用が前提であり、それに加えて抗がん剤や放射線の治療と併用した結果、三大治療法のみの場合と比べて上乗せ効果があったということである。しかし、これは、十分に意義のある効果と見るべきだ。
以上、がん治療体にやさしい医療への潮流(江川滉二著/河出書房新社)より転用
下線部分は、患者にとって極めて重要な指摘であり、免疫細胞療法の併用により、上乗せ効果があったという事、特に、全体の3割の患者さんが治癒して救われたという報告には、希望を見出します。理由が十分に学術的に解明され、将来保険収載になる道を開くことも大事であるが、今、がんに直面にしている患者にとっては、今適用できる治療法が重要である。その観点で「十分意義のある効果とみるべき治療法」があり安全であるならば選択肢のひとつとして是非、医師と相談のうえ適応を検討したいものです。「いわゆるエビデンスを中心に考える人たちの中には、この研究を多少何点のある報告考える」と言う記述もありますが、何故効果があるのかが十分に解き明かされていない段階であってもこうした「リアルアルワールドエビデンス」をベースとし臨床研究結果に大いに期待を寄せるものです。
この報告書で免疫細胞療法を併用した患者さん群ととそれを併用しなかった患者さん群で生存期間中のQOLに優位の差を認めるか否かも大変注目するところです。恐らくは、免疫細胞療法を併用した群のQOLの方が高かったのではないかと推察しています。
また、この論文は、追試とともに、2016年に米国臨床腫瘍学会の機関誌「JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY](ASCO)に掲載されたエビデンスレベルIである
「Efficacy of Tumor vaccines and Cellular Immunotherapies in Non-Small-Cell Lung Cancer: A Systematic review and meta -Analysis」(対象者6,756人)
の中にも組み込まれております。