がん免疫療法の1つであるペプチドワクチンの臨床研究で、食道がんの手術のあと、再発予防のためにペプチドワクチンを投与したところ、再発を大幅に抑える効果が得られたと、近畿大学が発表しました。
ペプチドワクチンは、抗原ペプチドという、がん細胞に出ている特徴的なタンパク質(がんの目印のようなもの)を患者さんに投与し、体内の免疫細胞の働きを高めて治療効果を得ようという、がん免疫療法のひとつです。
仕組みとしては、体に入ってきた抗原ペプチドを体内の免疫細胞が敵と認識して免疫が誘導され、攻撃部隊のキラーT細胞が増殖・活性化して、がん細胞をめがけて攻撃します。
研究の対象となった食道扁平上皮がんは、早い段階から転移しやすく、ワクチンを接種しなかった場合の5年生存率は32.4%だったのに対して、ワクチンを投与すると60%と約2倍に上昇したそうです。
3人のうち2人は亡くなっていたのが、ワクチンによって3人に2人は生存できるようになったのですから、劇的な効果です。
仮にがんになってしまったとしても、手術ができる段階で発見して治療し、その後の再発を抑えることができればがんは完治が期待でき、怖い病気ではありません。
しかし、早期で見つけてもこれまでの治療では一定割合で再発が起こってしまうため、患者さんは再発の不安を抱えながら経過観察期間を過ごすことになります。
再発をもっと抑えられる治療が必要です。
がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などが日本でも保険治療として承認されており、がん治療の柱として欠かせない治療法となっていますが、ペプチドワクチン療法でまだ承認されたものはありません。
今回の研究も研究途中の結果ではありますが、次の段階である第3相臨床試験の症例登録も終わっているとのことで、2021年中には最終解析される予定だそうです。第3相試験でも第2相試験と同様な有効性が証明されれば、世界で初のがんペプチドワクチン治療薬が承認される可能性も出てきました。
ペプチドワクチンも免疫細胞治療も、かねてから、手術後の再発予防に適しているのでは、と言われてきました。それは治療による体への負担が非常に小さいこと、また再発の原因になる微小ながん細胞を排除する効果が期待できるからです。
肺がんの分子標的薬でも、肺がん患者さん全体で見れば、ほんの数%の人にしか効果がないけれど、特定の遺伝子異常をもった肺がん患者さんをターゲットにすれば、80%以上の有効率が得られる、というものが承認されています。このように、いまは個別化医療の時代になっています。
免疫細胞治療やペプチドワクチンも、過去の試験結果から「効果がない」と決めつける意見もありますが、今回の近畿大学の試験結果のように、適切な条件や患者さんに合致すれば、例えば免疫チェックポイント阻害薬との併用などにより、非常に有用な治療となる可能性があると思います。
【参考情報】
近畿大学プレスリリース