現在、代表的ながん治療法として、外科療法(手術)と放射線療法、抗がん剤などの薬物療法、免疫療法の4種類があります。
この中で、免疫療法は比較的新しい治療として、最近知られてきたように思います。しかし実は古くから研究され、一部の治療法は以前から保険適用となっているものもあります。
がん免疫療法の歴史を振り返るとともに、現在の免疫療法をご紹介します。
がん免疫療法の歴史
がん免疫療法が始まったのは、実は100年も前の話だそうです。
ウィリアム・コーリーという外科医師は、19世紀末、肉腫の患者さんのがんが細菌に感染した後に縮小したのを目撃して、細菌の感染により患者自身の体ががんを抑え込むようになるという仮説を立て、死滅させた細菌を腫瘍内に注入するというがん治療を始めました。この治療によりがんの縮小が持続し、また消失することもあったそうです。これががん免疫療法の先駆けとされています(※1)。
当時は免疫についてほとんど明らかになっておらず、コーリー医師自身もなぜ細菌の死がいが、がんを消滅させたのか分かりませんでした。治療法の原理が不明だったこと、そして同時期にキュリー夫人による放射線の発見により放射線療法が発展したことで、免疫療法の開発は忘れ去られてしまったそうです。
再び免疫療法が注目され始めたのは1970年代でした。BCGをはじめとする細菌製剤が、がん治療薬として認可されたのです。BCGはもともと結核予防のためのワクチンとして開発され、9つの針のある管針で2回肩の皮膚に接種します。子供の頃に接種を受けた方は、肩に9つの点の接種跡が残っている方もいらっしゃると思います。
当時はまだ、細菌製剤ががんに効く仕組みは十分に明らかになっていませんでしたが、細菌がもつ成分が食細胞にある特定の受容体に結合して、がんに作用したと考えられています。食細胞とは、体外から侵入した異物を食べて排除したり、食べた異物の情報をほかの細胞へ受け渡したりする免疫細胞の一種です。その後、だんだんと免疫の仕組みが明らかになり、BCGは当時膀胱がんの標準的な治療法となりました(※2)。
副作用を解消するために開発された免疫細胞治療
初期の免疫療法は、免疫を刺激し、活性化させて異物であるがん細胞を排除するように働きかける治療法です。免疫を刺激するのに使われたものが、細菌やキノコに含まれる成分です。
また、免疫が働く時に放出されるサイトカインと呼ばれる物質は、免疫の主要な細胞であるT細胞を増殖させて免疫を増強します。そのため、サイトカインもがん治療薬として応用されました。しかしサイトカインや細菌成分によるがん治療薬は、副作用が問題でした。そこで新しく考え出されたのが、免疫細胞治療です。
免疫細胞治療は、がん患者さんから採血し、血液中から取り出した免疫細胞を体外でサイトカインにより刺激して増殖させ、副作用のもとになるサイトカインを取り除いてから再び体内に戻すという治療法です。サイトカインは体内に入らないため、副作用も問題になりません。そして2010年には、アメリカで初めて免疫細胞治療が前立腺がんの治療として承認されました。
樹状細胞ワクチン療法とは?
免疫細胞治療のひとつとして、近年注目されているのが樹状細胞ワクチン療法です。
樹状細胞とは免疫細胞の1種で、体に害となる異物の情報を読み取って、攻撃役であるT細胞へと伝えます。樹状細胞から情報を受け取ったT細胞は抗体を産生したり、異物を直接攻撃して排除したりします。
樹状細胞ワクチン療法では、体外に取り出した患者さんの樹状細胞に、がんの目印となるタンパク質をわざと取り込ませることで標的を覚え込ませ、それを体内に戻すことで、体の中でT細胞への指令をより強力にする仕組みの治療です。
最新の樹状細胞ワクチン療法としては、患者さんのがんを遺伝子解析して、その患者さんだけの目印を作って樹状細胞に取り込ませる「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法」が研究され、臨床研究も行われているそうです。
今後、治療実績が増えれば、新しいがん治療として普及するかもしれません。
【参考文献】
※1)Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150230
※2)後藤重則医師, 家族を守る免疫入門, KAWADE夢文庫,2020.