お知らせ

“進化を目指す姿勢”から生まれる新しい治療

カテゴリー:お知らせ,事務局ブログ 2020.09.17

 

今月、患者が期待を寄せる話題の治療法が承認される見込みとなりました。

厚生労働省の部会は9月4日、光免疫療法(頭頸部がんが対象)に使用される薬剤の製造販売を了承。今月中にも正式承認され、年内には保険診療として治療が開始される見込みです。

 

光免疫療法は、米国国立がん研究所の主任研究員を務める小林久隆医師が、楽天の子会社である楽天メディカルとともに開発した治療法です。

 

ある光を当てると反応する特殊な物質を患者さんに投与し、その物質ががん細胞に結合したところで光を当てると、正常な細胞を傷つけることなく、がん細胞のみを破壊するというこの治療法。2012年当時のオバマ大統領が一般教書演説で言及し、一躍注目を集めました。

それから8年、この過去にはなかった新しい治療は、既存の治療で効果が得られなかった患者さんの希望となっています。

 

このように新しい分野を切り開くことについて、生体肝移植のフロントランナーであった田中紘一先生と、がん研有明病院の中村祐輔先生がある対談記事で語っています。

【特別対談】中村祐輔×田中紘一「医療が変わる」「がんが消える」

 

田中先生は、生体肝移植がまだ認められておらず逆風だった時代に、世間の強いバッシングを受けながらも患者さんのために挑戦し続け、治療法を確立した人です。

 

一方、中村先生は遺伝子・ゲノム分野の世界的権威で、標準治療では治癒が難しいがん患者さんのために、遺伝子解析を生かした新しいがん免疫療法「ネオアンチゲン免疫療法」の開発に心血を注いでいます。

 

対談の中で、田中先生は、

 

新しい治療というのは、できるかどうか分からないことへの挑戦から生まれると思います。現在行われている標準治療を見てもそうです。現状を維持するのではなく、「より進化した標準治療」を目指す姿勢が大切です。

 

「標準治療が一番。学会で決めたガイドライン通りにするのが一番いい」と思っている医師が増えているのが気になります。ガイドラインは一つの目安に過ぎないもので(中略)、患者さんを診るうえでは、「統計上はこうだけれども、目の前の患者さんにとってベストの方法は?」と考える視点を常に持っていなければならない

 

といいます。

標準治療は、臨床試験で治療効果が確認・評価され、国が承認した治療です。こうした治療がまず第一選択肢になることは当然なのですが、そこには限界もあります。

 

中村先生が記事中で言及しているように、“現在の標準治療は、患者さんが「生きたい」という想い、家族の「何とか生きてほしい」という願いを奪い取ってしまう一面がある”ではいけないと思います。

 

光免疫療法は日本人研究者が開発しましたが、米国の組織のなかで生まれ、楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷氏という改革者の支援により、こうして世に出ることになりました。

光免疫療法に続く希望が、多く生まれることを期待しています。

 

【参考】

ミクスONLINE 「薬食審・第二部会 新薬3製品の承認了承 頭頸部がんの光免疫療法用薬など

 

 

 

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近畿大学の研究で、がん免疫療法が食道がんの再発を大幅に抑制

カテゴリー:お知らせ,事務局ブログ 2020.09.13

 

がん免疫療法の1つであるペプチドワクチンの臨床研究で、食道がんの手術のあと、再発予防のためにペプチドワクチンを投与したところ、再発を大幅に抑える効果が得られたと、近畿大学が発表しました。

 

ペプチドワクチンは、抗原ペプチドという、がん細胞に出ている特徴的なタンパク質(がんの目印のようなもの)を患者さんに投与し、体内の免疫細胞の働きを高めて治療効果を得ようという、がん免疫療法のひとつです。

仕組みとしては、体に入ってきた抗原ペプチドを体内の免疫細胞が敵と認識して免疫が誘導され、攻撃部隊のキラーT細胞が増殖・活性化して、がん細胞をめがけて攻撃します。

 

研究の対象となった食道扁平上皮がんは、早い段階から転移しやすく、ワクチンを接種しなかった場合の5年生存率は32.4%だったのに対して、ワクチンを投与すると60%と約2倍に上昇したそうです。

3人のうち2人は亡くなっていたのが、ワクチンによって3人に2人は生存できるようになったのですから、劇的な効果です。

 

仮にがんになってしまったとしても、手術ができる段階で発見して治療し、その後の再発を抑えることができればがんは完治が期待でき、怖い病気ではありません。

しかし、早期で見つけてもこれまでの治療では一定割合で再発が起こってしまうため、患者さんは再発の不安を抱えながら経過観察期間を過ごすことになります。

再発をもっと抑えられる治療が必要です。

 

がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などが日本でも保険治療として承認されており、がん治療の柱として欠かせない治療法となっていますが、ペプチドワクチン療法でまだ承認されたものはありません。

今回の研究も研究途中の結果ではありますが、次の段階である第3相臨床試験の症例登録も終わっているとのことで、2021年中には最終解析される予定だそうです。第3相試験でも第2相試験と同様な有効性が証明されれば、世界で初のがんペプチドワクチン治療薬が承認される可能性も出てきました。

 

ペプチドワクチンも免疫細胞治療も、かねてから、手術後の再発予防に適しているのでは、と言われてきました。それは治療による体への負担が非常に小さいこと、また再発の原因になる微小ながん細胞を排除する効果が期待できるからです。

 

肺がんの分子標的薬でも、肺がん患者さん全体で見れば、ほんの数%の人にしか効果がないけれど、特定の遺伝子異常をもった肺がん患者さんをターゲットにすれば、80%以上の有効率が得られる、というものが承認されています。このように、いまは個別化医療の時代になっています。

 

免疫細胞治療やペプチドワクチンも、過去の試験結果から「効果がない」と決めつける意見もありますが、今回の近畿大学の試験結果のように、適切な条件や患者さんに合致すれば、例えば免疫チェックポイント阻害薬との併用などにより、非常に有用な治療となる可能性があると思います。

 

【参考情報】

近畿大学プレスリリース

食道がん術後補助療法としてのペプチドワクチンの有用性を証明 食道がんにおける5年生存率を約2倍に改善

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