日本では、2021年に新型コロナワクチンの接種が始まってから、半年あまりで日本の新型コロナワクチンの2回接種率は70%(※1)を超えました。
しかし厚生労働省は、一般市民に対する新型コロナワクチンの3回目接種の実施も検討しています(※2)。なぜ一度のワクチン接種で一生効果が持続しないのか、ワクチン接種を何度も実施するブースター接種の必要性について学んでみましょう。
新型コロナワクチンの効果は一生持続しない
新型コロナワクチンに限らず、感染症に対するワクチンは、基本的に一生効果が続くものではありません(※3)。
そもそもワクチンは、体に害がないウイルスの一部や死滅させたウイルスを使って、人体の免疫機能を利用して抗体を作らせる予防医療の一つです。抗体はウイルスの働きを抑制するため、万が一ウイルスに感染した場合もワクチン接種で作られた抗体が働いて、感染による症状を和らげます。また、細胞を戦闘部隊としてウイルスと戦う準備をさせるのがワクチンです。
ワクチン接種により作られた抗体は、異物が除去されると自然と血中から消えます。一方で、抗体を作った記憶は細胞に残り、再度同じ異物が侵入すると即座に対応するメカニズムです。
細胞が記憶しているなら、新型コロナワクチンは一生効果が持続すると思うかもしれません。しかし、細胞の記憶は時間の経過とともに薄れていき、効果も弱くなっていきます。
ワクチンの効果が一生続かない理由
前述のとおり、ワクチンによって作られた免疫は次第に弱くなり、最終的に再感染しても抗体が作られなくなります。 実はワクチンの効果が一生続かない理由は、それだけではありません。
ワクチンの効果は、ウイルスにある目印に対して効果を発揮するものです。つまり、ウイルス自体が変化して目印がなくなってしまうと、ウイルスが抗体や細胞による攻撃対象として認められなくなってしまいます。
実際に日本でも、新型コロナウイルスの変異株であるデルタ株やオミクロン株が確認されており、新型コロナワクチンを2回接種した人も感染することが報告されています(※4)。
ブースター接種の必要性と期待できる効果
新型コロナワクチンを2回接種しただけでは、時間とともに効果が薄れてしまうことは先にお話ししました。しかし、継続的にワクチンを接種することで、効果を長引かせることはできます。これがブースター接種と呼ばれるものです。新型コロナワクチンをブースター接種すると、その度に細胞の記憶が呼び覚まされることになります。
車の運転で例えると、長く自動車の運転をしていないとギアの入れ方やライトのスイッチの操作を忘れてしまいます。しかし、定期的に運転していれば、運転の仕方を忘れることはほとんどないでしょう。
新型コロナワクチンの接種でも、車の運転と同じことがいえます。細胞の記憶を定期的に刺激することで、抗体の作り方やウイルスへの攻撃の仕方を忘れにくくするのが、ブースター接種です。
現在、厚生労働省では新型コロナワクチンの追加接種を予定しており、希望者は3回目の接種ができるようになります。
がん治療中の患者さんは、治療内容やタイミングによっては感染や重症化リスクが高くなる場合がありますので、開始されたら速やかにワクチンの追加接種をされることをおすすめします。
参考文献
※1)政府CIOポータル「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む))」(2022年1月6日時点)https://cio.go.jp/c19vaccine_dashboard
※2)厚生労働省「追加接種(3回目接種)についてのお知らせ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_booster.html
※3)後藤重則医師「家族を守る免疫入門(KADOKAWA夢文庫)」2020.
※4)国立国際医療研究センター「新型コロナウイルス、オミクロン変異株に感染した11例の臨床経過とウイルス排出期間に関する報告」